カウンセリング事例⑥
Aさん(パート勤務)
Aさんは、とても面倒見のよい、こころの温かい人です。職場では、周りの方達の悩み事を、いつも親身になって聴いてあげていました。みんなに愛され頼られる存在です。
ある日、そんな彼女から1本の電話をもらいました。「突然、会社をクビになってしまった。死にたい。」と。クビになった理由ははっきりとはお話されません。Aさんは、電話口で取り乱し泣きじゃくっています。
さて、私はAさんにどのようなカウンセリングをしたでしょうか。
泣きながら「死にたい」と繰り返すAさん。私は、しばらく話を聴いていました。「死にたいのね。死にたいくらい辛いことがあったのね。辛いよね。苦しいよね。そうかそうか。」取り乱していたAさんは、話すうちに、少しずつ落ち着いた様子になっていきます。そこで、私は、今度は自分の悩みをAさんに話し始めます。「実はね、私もこんなことがあってね・・・今、すごく辛いんだ。」Aさんは、私の話をずっと聴いています。しばらく自分の悩みを話して、Aさんが落ち着いたのを確認し、「なんだか逆に私の話ばっかり聴いてもらっちゃってごめんね。」と電話を切りました。
なぜ私は「死にたい」と言っているAさんに自分の悩みを話したのでしょう。
Aさんは、とても辛いことがあって死にたいと思っています。そして、私に泣きじゃくって電話をかけてきました。ところが、何故か逆に、私の悩みを聴くことになってしまいます。Aさんにとっては、予想外の展開だったはずです。
Aさんはとても面倒見のよい温かい人です。いつも親身になって話を聴いてくれる人。
私は、わざとAさんに自分の悩みを話しました。Aさんは、私の話を聴いているうちに、だんだん、苦しんでいる私をほおっておくことができなくなります。なんとかしなきゃ、と考え始めます。「死にたい」だったAさんのこころは、私に向かいます。「死にたい」気持ちから遠ざけるようにしたのです。面倒見のよいAさんなら、きっとこころが疼くはず。関心が私に向かっている限り、自殺はしない、そう思いました。
後日、Aさんから電話をもらいました。「あの話どうなりました?大丈夫ですか?」
どこまでも面倒見のよい、いつもの彼女がそこにいました。次の仕事が決まり、Aさんは、またその職場でも、みんなの相談役、愛され頼られる存在になっています。
※ご相談者さまからの掲載許可を頂いております。
※あくまでAさんの事例です。カウンセリングの流れは、個別のケースによります。